「あんな顔で生まれていたらもっと違う人生があったかも」
そんな風に思ったこと、ありませんか?
どんな人にだって、コンプレックスはあります。
自分から見れば、コンプレックスなど無いような素敵な人でも、もしかしたら自分の方を羨んでいるかもしれない…そんな誰しもが抱える
嫉妬や羨望をふたりの女優の関係性で表した作品が「累–かさね–」です。
そのあらすじやネタバレ、視聴した感想をご紹介します。
映画『累–かさね–』あらすじ・ネタバレ
口元に大きな傷のある醜い少女・累は母親の法事の席で、羽生田という男から舞台のチケットを渡されます。
その舞台で主演を務めていた女優・丹沢ニナ。ニナは容姿こそ美しいものの、演技力に関してスランプに陥っていました。
羽生田は累をニナの影武者にしようと企んでいましたが、累の顔を見たニナは激昂。
「こんな女にわたしの代わりが務まると思ってるの?」そう言って累に掴みかかります。
しかし累も罵倒されるままではありませんでした。
累は口紅を塗ってキスをすると相手の顔と自分の顔を入れ替えることができる。
不思議な口紅を有名な女優だった母親から託されていました。
それを使って、ニナの顔となった累はつい今しがた観たニナの舞台の役を演じます。
その圧倒的な演技力にニナは累を認めざるを得ず、累も葛藤しながらもついにはニナの代わりとなることを決めるのです。
それからはニナによるレッスンの日々でした。
女優としての体づくり、声出しなどの基礎的な部分から口紅の効果の検証まで。
万全を期して累はあるオーディションに挑みます。
それはニナがずっと憧れていた若手演出家・烏合の舞台のオーディションでした。
無事に役を勝ち取った累が練習に励む中、ニナは焦りを覚えます。
ニナの烏合への気持ちを知っていながら、累もまた、自分を認めてくれた烏合に対し恋心を抱きます。
ニナの顔で烏合と距離を縮めていく累。
何とかニナを出し抜こうとしたものの、直前で顔が元に戻ってしまいニナにその機会を奪われてしまいます。
それまでは従順にニナに従っていた累が初めて意図的にニナの顔を使おうとしたことに驚愕し、同時に自分の人生を奪われる恐れを抱くニナ。
お互いが、お互いに嫉妬や劣等感を覚えていきます。
そんなときに発覚するニナの病気。
ニナは発作が起きるとしばらく眠り続けてしまうという病気にかかっていました。
そうして目覚めたとき、ニナの世界は一変していました。
ニナが眠り続けているときにも、もちろん累は口紅を使ってニナで在り続けました。
烏合の舞台が大成功に終わったこと。
ニナが持てなかった烏合との関係を、累が持ったこと。
そしてそれはとっくに破局していたこと。
うなぎ登りになっているニナへの評価。
それを体現するような、大物演出家の舞台へ出演が決まったこと。
それから何より衝撃的だったのは、大切な母親に累として紹介されてしまったこと。
大好きな母親が他人として自分を扱い、母の隣には自分ではないニナがいる。
それに母親はまったく気づいていない事実にニナは愕然とします。
自分の世界から取り残されたニナは目の前で笑う自分の顔に恐怖を覚えます。
恐れていたことが起こってしまった、このままでは、自分の人生を乗っ取られてしまう….と。
この事態をどうにかできないかと累の過去を調べ始めるニナ。
調べて行くうちに、累の母親や、累の口元に出来た傷の理由などを知ります。
恐怖のあまりもうやめよう、というニナの提案をもちろん拒否する累。
力関係は完全に逆転していました。
そして迎える大物演出家の舞台当日。
演目は、累の母も演じたことのある聖書で伝えられているサロメのエピソードをモチーフにしたもの。
舞台の合間、累の出番がなく、ちょうど口紅の効果が切れるその時間。
ニナと累は顔を巡って対峙します。
本当に大切なものは、なんなのか。
本当に求めるものは、なんなのか。
ふたりの女優の求めるものは、その行く先は….
ぜひ、ふたりの結末を見届けていただきたいです。
映画『累–かさね–』感想
まず観終わって思ったのは、「女優さんってすごいなぁ」でした。
なんとも月並みな感想ですがまずはそれに尽きるなと。
主演のおふたりはキスで顔が変わるという設定上、ひとり二役されていますが、さらに演じてる人物が舞台女優ということで
それぞれの役柄が演じる舞台上の役も演じなければならない。
いくつもの表情が演じ分けられているのがただただすごいなと思いました。
そしてストーリーですが原作を知らずに行きましたがそれでもとても面白い。
設定は非現実的なのにそこに渦巻いている感情がどれも身近にありすぎるせいか、すっと感情移入できます。
初めは利用されている累がおとなしく、言われるがままの状態だったので少しかわいそうな気もするなぁと思って見ていたのですが自分の欲望に忠実になった累の豹変すること…!
その狂気じみた豹変ぶりに怖さを感じながらも、立場的に弱かった累が、カースト上位であるニナの人生を奪っていこうとする様は
ニナには申し訳ないけれど少しだけわくわくともしました。
「教えてあげる、劣等感ってやつを!」
そのキャッチコピーにぴったりの、ちょっとだけ胸のすくような展開にはきっと共感できるところもあるのではないでしょうか。
そして、ひっそりと世界観を作り上げるのに貢献しているのが「サロメ」の舞台です。
サロメは新約聖書などで伝えられている女性の名前です。
預言者ヨカナーンに惹かれたサロメはその美貌を駆使して彼を誘惑しますがまったく振り向いてもらえません。
とうとう思いの募りすぎたサロメはヨカナーンの首を求めるようになります。
恋慕という欲求が狂気に昇華していく様が、まさにこの累とニナの関係性にぴったりで異常性を高めるのにとても効果的だなぁと思いました。

そういった映画の中の劇中劇にもまた目を奪われます。
サロメを演じているシーンはほんの少ししかないのですが土屋太鳳さんの舞のシーンはとても美しく、危なげな色気がありました。
少しだけしか見れないのがもったいなくて、むしろそのサロメの舞台も全編通しで観させてほしい…と思ったものです。
映画『累–かさね–』主題歌とまとめ
そしてふたりの感情が盛り上がり、ラストを迎え、流れるエンディング。
この映画の世界観を閉めるにぴったりのAimerさんの「Black Bird」が観終わったあとの心地よい惚けた状態の頭に沁みます。
歌詞を改めて読むと累の気持ちや心の叫びが聞こえるようでまた違った気持ちで映画本編を観たくなる曲です。
あっという間に時間が過ぎてしまう、ひとつの映画なのに何作品も同時に観ているような、濃密な作品です。
ただのハッピーエンドなんかじゃつまらない、そんなひとにおすすめします。
それでは!!