あなたにとって、家族とはどういうものでしょうか?
わずらわしいもの?欲しているもの?あって当たり前のもの?
今回はふたつの家族の在り方、人と人との繋がりの愛おしさ、
大切さを描いた作品をご紹介します。
「あいあい傘」ネタバレ
映画はモノクロで映し出されたひとつの家族の映像から始まります。
小さな女の子のいる家族三人が楽しそうに笑顔で出かけている様子や、家での誕生日を祝っている様子。
どの映像も満面の笑顔で仲のいい家族なんだなとすぐにわかるものでした。ところがそれが一変します。
流れ出す不穏な空気。悲痛な雰囲気で、ひとり山に向かって娘から誕生日にもらった肩たたき券とともに握りしめる、薬の瓶。
如何にも今から自殺しますといった雰囲気。
けれどそこにひとりの妊婦が傘を差し伸べるのです。
ここまでずっと映像が流れるだけで音声はありません、そして妊婦と自殺しそこなった父親が連れ立って歩くところからお話が動いていきます。
自殺しそこなった父親–––東雲六郎は、自殺を止めてくれた妊婦・玉枝と内縁関係となり玉枝とそして生まれてきた娘・麻衣子とともに暮らしていました。
学習塾を経営しながら慎ましくも幸せな日々を送る六郎。
ところが麻衣子とは本当の父親でないということ、そしていつまでも玉枝と籍を入れないところから、うまく関係を築けないでいました。
そんな六郎の住む街ではもうすぐ夏祭りの日を迎えます。
恒例のテキ屋も続々と集まる中、馴染みのテキ屋・清太郎から「結婚するかもしれない」と連絡が入ります。
実はその結婚話、というのはよくよく聞いてみたところ、突然逆ナンのように声をかけてきた旅行客の女性に一目惚れしただけというものでした。
しかも清太郎がのぼせ上がっているだけで、騙されているのではないかと思うくらいその女性の様子は怪しさ満点です。
清太郎のテキ屋仲間である日出子は、浮かれきった清太郎を心配し、清太郎に気がないのなら振り回さないで欲しい、意外と根っこはピュアだからとその女性に言いにいきます。
そこで清太郎や日出子、そして日出子の彼氏でもあり同じテキ屋の力也はその女性が六郎がかつて捨てた娘のさつきであることを知ります。
さつきは父親を連れ戻すためにこの地へやってきたこと、清太郎が電話で六郎の名前を出していたから、利用するために声をかけたことを告げるのです。
その前日、すでに玉枝とも麻衣子とも顔を合わせていたさつきは、清太郎たちに六郎が自分たちを捨ててからの二十五年の苦労や、玉枝たちに対する憤りを酔った勢いで赤裸々にぶつけるのでした。
酔った勢いで自分たちの受けた苦しみと同じ思いを玉枝と麻衣子にもさせる、なんて物騒なことを言っていたさつきを止めようと清太郎たちはさつきの泊まっているホテルまで赴きます。
さつきはまだ結局会えていないから会ってみないことにはどうなるかわからないと言いつつも、六郎とはなかなかすれ違って会えません。
そうこうしているうちに、さつきは自分にこの場所のことを教えた車海老と出会い、さつきを探していたのが玉枝からの依頼であったことを知るのです。
少しづつ、知らなかった情報を知ることで憤りばかりだった心が落ち着いてくるさつき。
そんなさつきに、清太郎はさつきが疑問に思っていたことの答えを与えます。
それはなぜ六郎が「東雲」という姓を名乗っているのか、ということでした。
さつきが玉枝と話している間に六郎を迎えに行ってくれた清太郎が言うには、六郎は東の空ばっかり眺めていること、そして毎日神社へ詣でるたびに
東の空に向かって手を合わせていたことを由来に玉枝がつけたと言うことでした。
この地から東にはさつきたち家族の住む横浜があります。
そのことから、六郎が自分たちのことも思ってくれていたと知ったさつきは玉枝の計らいでとうとう六郎と話をすることになります。
傘を修理している六郎の背後からそっと近づくさつき。
「地元の方ですか?」
と旅行客を装って他人行儀に声をかけます。
そして目についたのは六郎の手荷物。
いつも六郎が持ち歩いている巾着から玉枝が何かしらを取り出していたのが気になっていたのです。
会話をしながらそっとその袋から出されていたものを開くさつき。
そこにはさつきが幼い日、六郎の誕生日に渡した肩たたき券が挟まれていたのです。
六郎の思いに気づき涙を流すもあくまでも他人として話し続けるさつき。
六郎も気づきながらも、その意図に気づき調子を合わせます。
使われることのなかった肩たたき券をようやく、と言わんばかりに六郎の肩を揉みながら涙交じりの声で会話を続けるさつき。
そこにはもう憤りはなく、ただただ父の幸せを祈る娘の姿があるばかりでした。
「あいあい傘」感想
このお話は、ざっくりと言ってしまえば、父親が自殺しようと家を出て、その先で出会った女性と家族として過ごしていたところに現れる捨てられた娘の話です。
主人公さつきの魅力
テーマとして扱っている事象は重たいのに、お話全体が暗くならずむしろ時折くすりと笑ってしまう部分もありました。
それを叶えているのが、主人公のさつきの思い詰めすぎず、嫌なことは嫌、ムカつくことはムカつくと言ってしまう素直さや、訪れた地でさつきに振り回される清太郎や日出子、力也のコミカルで人情味が溢れるところだと思います。
テキ屋の清太郎の魅力
テキ屋、と言う商売ならではな小気味の良い関西弁と、笑いをちょこちょこ挟んでくる会話には観ている人の気持ちを沈ませすぎることが無いように演出されているのかと思うくらいです。
特に清太郎の、さつきに利用されているとわかってからも
さつきのことを心配し親身になってくれるあたたかさはこの映画の一番の魅力であり、救いなのではないかなと思います。
結婚をあいあい傘に例えるシーン
そして印象的だったのは結婚をあいあい傘に例えるシーン。
あいあい傘をしていると走れない、一歩一歩ゆっくりとお互いを気遣いながら歩いていくしかないんだ
というセリフになるほどな…としみじみ思いました。
最後に
六郎を玉枝が見つけた時も、すべてが終わってふたり出かけるときも、
映画のはじまりから終わりまで、ふたりはあいあい傘で歩くのです。
すっきりすべてが解決、丸く収まったというわけではありません。
けれど、それぞれに落とし所を見つけてくれて、前を向くきっかけを得ることができて、よかったなと思います。